いつの頃からだろうか。
私はある夢を頻繁に見るようになっていた。 その夢は必ず真っ暗な闇の中から始まる。 暗闇の中、私は一人で座っているのだ。 暫くすると後ろの方から女の子の声が聞こえてくる。 「鬼……」 その夢を初めて見た時は「鬼」という部分以外は何を言っているか聞こえなかった。 声の聞こえる方を振り向くと女の子が遠くの方でこっちを見ている。 同じ言葉を繰り返しているようだが何を言っているか分からなかった。 私はどうしていいか分からずその場でずっと座りっぱなしだった。 朝になり目覚ましが鳴り目が覚める。 体は少しだるい。 その頃から何度も同じ夢を見るようになった。 同じように女の子の声が聞こえてくる。 「鬼…手…」 「鬼…手…方へ」 「鬼さん…手の…方へ」 「鬼さんこちら手の鳴る方へ。」 何度か同じ夢を見ている内にやっと女の子の言葉が分かった。 女の子は私と鬼ごっこがしたいらしい。 それは夢の中の話だとずっと思っていた。 ある日、私は洋服ダンスを開けた。 するとそこにあの女の子がいたのだ。 夢の中で見た女の子が現実の世界のそこに確かにいたのだ。 クスクス…と彼女は笑み浮かべると姿を消した。 何故か恐くは無かった。 現実の世界で彼女の姿を見るのは初めてだが夢の中ではいつも見ている。 不思議と親近感さえ覚えていた。 それに同じ夢を繰り返し見ている内にいつの頃からかこれは夢とは別の世界だという事にも薄々気付いていた。 彼女の意識は確かに存在しており私は寝ている時に彼女の意識の断片に触れているのに過ぎないのだと。 それを境に度々、彼女を目撃するようになった。 ベッドの下、クローゼットの中、お風呂の浴槽、彼女はいろいろな所にいる。 見つける度に彼女は笑みを浮かべながら消えていく。 しかし暫く見かけない日々が続いた後に彼女を見つけると少し怒った表情を浮かべながら消えていく。 些細な話だが彼女は「鬼ごっこ」と「かくれんぼ」を勘違いしているらしい…。 彼女はかなり古い人のようなのでそもそも昔は鬼ごっことかくれんぼは同じ遊びだったのかも知れない。 さすがに彼女と鬼ごっこはできないのでかくれんぼのままの方が私にとっては好都合なのだが。 新しい家に引っ越ししてからは彼女を見かける事は無くなった。 今でも彼女がどこか同じ場所に隠れ続けているかと思うと少し心配だ。 別の誰かが彼女を見つけてくれればいいのだが。 彼女に新しい友達ができますように…。 |