Gホテル


私の実家はM市にある。
私は帰郷する際、実家には連絡を入れずに帰る事が多い。
突然帰って驚かせようと言う魂胆なのだが…
最近は家族も驚かなくなってしまったので面白味に欠ける。

さて…、これは数年前のお盆に体験した話。
いつものように私は実家に連絡を入れずに帰郷した。
M駅に到着したのが午後11時半頃。
実家に連絡して迎えに来て貰おうと電話をしたが誰も出ない。
地元の友人に迎えに来て貰おうとしたが誰とも連絡が付かない。
疲れていたので私は駅の近くにあるシティホテルに泊まる事にした。
駅前には3つホテルがあるのだが、他のホテルは満室だったのでGホテルに泊まる事になった。
Gホテルは昔は繁盛していたが、今では外見も内装も廃れてしまい客入りの悪くなったシティホテルだ。

Gホテルに到着した私はフロントでチェックインを済まし部屋に入った。
ヤニ臭い四畳程の部屋、色褪せた壁紙にベッド、染みの付いた絨毯、薄暗い照明…。
あまり良い雰囲気の部屋では無かった。
しかし、シャワーを浴びて寝るだけだ。
私は服をベッドに脱ぎ捨てて浴室へ向かった。

浴室も非常に窮屈で妙に薄暗く嫌な雰囲気だ。
お湯を溜めるのも面倒だったので私はシャワーだけ浴びる事にした。
私は浴槽に入りシャワーで濡らた頭をシャンプーで洗い始めた。
そして頭からシャワーを浴びていると…
バチッ…!バチッバチッ!
と凄い音が耳元で聞こえた。
目を閉じていたので何が起きたか理解できなかった。
しかし、目を開けた瞬間、今の音が何だったのか分かった。
浴室の電球がショートした音だったらしい。
目を開けると辺りが真っ暗だった。
ガラス張りのドアでは無いので部屋の明かりは入ってこない。
シャンプーを流し終えてからフロントに電話しようと考えた。
シャンプーを流そうと俯いた瞬間、あるモノが視界に入った。
私の背後にぼんやりと青白い光が見えたのだ。
私の背後で何かが光っている…。
青い照明はこの浴室に無い…。

私はある事件を思い出した。
4〜5年前のちょうと今頃の時期。
このホテルで宿泊客の女性が自殺がしたと言う話が地元の人達の間に広まった。
田舎では悪い話はすぐに広まるので殆どの地元の人が知っている話である。
もちろん、どの部屋で自殺したのかは公表されていない。
その部屋は今でも宿泊に使用されているのだ。
今、私はまさにその部屋に泊まっているのだろうと察した。

私の背後には相変わらず青白い光がぼんやりと見える。
あまりの距離の近さに目を背ける事も逃げ出す事もできない。
下手に動くと今にも得体の知れない何かに襲われそうな気がしたからだ。
私は俯いたまま目を閉じる事もできず立ちすくんでいた…。
早く消えてくれと願いつつ…。

私が何もできずに硬直していると…
パサリ…
何かが私の肩に掛かった。
長い長い髪の毛だ…。
何かが背後にいる…。
早く消えてくれと心の中で叫んだ。
暫くするとショートしたはずの照明がパッパッと点滅を始めた。

浴室に明かりが戻った。
肩に掛かっていた髪の毛は消えていた。
「助かった…」と思ったのも束の間…
下を見ると浴槽の床には無数の長い髪、髪、髪…。
そして次の瞬間…
私の背中に誰かの肌がピタリと密着したのを感じた。
「後ろ…見て…後ろ…」
背後から女性の細く枯れた声が聞こえてきた…。
意識が遠くなるのを感じた…。


私は目が覚めた。
浴槽の中で横たわって寝ていたのだ…。
もしかしたら全て夢だったのかも知れないと思ったが…
シャワーを浴びながら寝てしまうなど考えられない…。

フロントに電話をして部屋を代えてくれと願い出た。
受付の男性は手際良く代わりの部屋を用意してくれた。
理由も聞かずに…。



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