高校時代の後輩の祐二からある相談を受けた。
本人にも承諾を得たので彼の話の内容をほぼ忠実に書き記したいと思う。 以下は祐二の会話である。 話の始まりは俺が専門学校に通っていた頃になるんですけど… 専門学校に入学して数ヶ月してある女の子と付き合う事になったんです。 その子は同じクラスの子で毎日顔を合わすわけですよ。 当時ね、女の子同士とか恋人同士での交換日記が流行っていたんです。 で、俺も半ばノリで彼女と交換日記をする事になったんです。 その時はどうせ2〜3ヶ月くらいで飽きてやらなくなるだろうって思ってたんですよね。 だけどね、何だかんだで結構長く続いたんです。 日記って言ってもちゃんとした日記帳じゃなくて… どこにでもあるようなノートにお互い日記を書いて交換してたんです。 女の子チックな日記帳を持ち歩くのって何だか恥ずかしいじゃないですか。 だから俺の希望で普通のノートに日記を書いてくれって頼んだわけですよ。 で…、彼女と付き合い始めて半年くらい経ったある日、突然、彼女が学校に来なくなったんです。 一人暮らしの彼女の家に行ったり電話したりして、何とか彼女と連絡を取ろうとしました。 だけど、最後まで彼女と連絡は取れませんでした…。 それから暫くして警察から電話があって、彼女が自殺したと言う事を知ったんです…。 警察の話によると、山中で彼女の遺体が見つかったんですが… その時に彼女が所有していた遺品の中に俺の日記があったんで警察から連絡が来たんです。 交換日記って言っても、普通は日記を交換しているのは学校にいる間だけじゃないですか。 でも、最後に彼女と会った日… 俺の日記を家に持ち帰ってゆっくり見たいって言われたんです。 それで、そのまま彼女は俺の日記を持って帰っちゃったんです。 あの日で交換日記が終わる事を分かっていた上での行動だったんでしょう。 俺の日記の最後のページには彼女のものと思われる震えた字で 「ごめんね」 と書いてありました。 彼女、元々体が弱くて幼い頃からずっと病院に通っていたんです。 彼女の遺書には「苦しくて苦しくてもう耐えられない…」って内容が書いてありました。 病気の事も知っていたのに…、その時一番彼女の近くにいたのに… 彼女を救えなかった自分を恨みました…。 彼女の葬儀の時に初めて彼女の両親と会いました。 その時に俺の持っていた彼女の日記を彼女の両親に見せたんです。 最初はこのまま俺が彼女の日記を持っているべきだろうかって悩みました。 でも彼女の両親が自分達で保管したいと言うので彼女の日記は彼女の両親に手渡しました。 そんな事があってからすぐ俺は学校を辞めました。 アルバイトを見つけてフリーター生活を始めました。 バイト先で新しい恋人も見つけて少しずつだけど自殺した彼女を思い出す事も減っていきました。 1年も経つと自殺した彼女を思い出す事は殆ど無くなっていました。 で、新しい恋人と同棲する事になって、住んでいたアパートを引っ越す事になったんです。 引越しの前日、荷物を整理していると…、見慣れないノートか出てきたんです。 何のノートだろうってページを開いたら…… 彼女の日記なんです…。 自殺した彼女の…! 間違い無く彼女の日記は彼女の両親に手渡したんですよ! なのにそれが俺の手元にある…。 混乱した俺は自殺した彼女の実家に電話しました。 彼女の親に話を聞いたところ… 葬儀の日、俺が日記を手渡したその日の内に彼女の日記は行方不明になっていたらしいんです。 俺が無意識の内に持ち出してしまっていたのか…? なんて考えましたけど、そうじゃないってすぐに分かりました。 彼女の日記をぺらぺらと捲って見てみたんです。 すぐに気付いたんですけど…、その日記、おかしいんですよ。 ノートのほぼ全ページが日記で埋まってるんです…。 最後に交換日記をした時には、せいぜいノートの半分くらいしか埋まってなかったんですよ。 日記の日付を見てみると…、彼女が死んだ日以降も日記が続いているんです…。 彼女が死んだ日以降の日記の内容ってのが… 俺の今の恋人とデートした内容とか話をした内容とかが客観的に書かれているんですよ…。 新しい恋人は由美って子なんですけどね…。 日記の内容っていうのが、具体的には… 『祐二と由美は今日もバイト先で楽しそうに話している。 今度の休日、二人で何処に遊びに行こうかなんて話している。』 『あんな女のどこがいいのか祐二の趣味を疑う。 早く別れてしまえばいいのに。』 『祐二と由美は今日も飽きもせず長電話をしている。 私とはそんな長電話をした事が無いのに。悔しい。』 『祐二と由美は連休を取って沖縄旅行に行った。 私と一緒に沖縄へ行こうって言ってくれたのに。 他の女と行くなんて許せない。』 『祐二と由美が結婚の話をしていた。 由美なんて死んでしまえばいいのに』 『由美が憎い 由美が憎い由美が憎いいい 呪い殺してやる 呪イコロシテヤル』 由美と結婚の話をした日以降なんて… 血のような赤い文字で理性の欠片も無い文章が延々と書かれていて…。 怖くて最後まで日記を読む事ができませんでした…。 そういえば、俺と由美が結婚の話をした翌日… 突然、由美が体調を崩したんですよね。 一ヶ月以上が経っても体調が良くならないので… 結局、由美はバイトを辞めちゃったんです。 日記を読んだら、それが偶然とは思えないんですよ…。 その日記を読んだ後、由美とはすぐに別れました。 これ以上、由美の身に何か起きたら責任を感じますから…。 それ以来、誰とも付き合ってませんよ。 だって誰かと付き合ったらまた日記が書かれちゃうと思うんで。 今でもね、自殺した彼女がどこかで俺の事を見ているんじゃないかって思うんです。 |