赤い部屋


私が一人暮らしを始めた時のお話。

大阪の京橋、とあるマンションの一室。
和室6畳の1Kの部屋、家賃は6万。
写真で見た限りではなかなか綺麗なマンションだ。
入居者がまだ住んでいた為、内見はできなかった。
急いでいたので写真だけで賃貸契約を交わした。
もし、その時、内見する事ができたら…
今から語る恐ろしい体験をする事は無かっただろう。


引越しの当日、私は初めてその部屋に入った。
部屋に入った瞬間…
「ああ…この部屋は赤いな。」
何故か私は無意識にそう思ったのだ。
白い壁に普通の畳、赤いものなど何一つ無いのだが…
何故か私はその部屋に「赤い」と言う印象を受けた。

引越しから約1ヶ月が過ぎたある日の夜。
私は布団の上に寝転がりながらテレビを見ていた。
そしてテレビを点けたまま眠りについてしまった。

暫くして私は何かの音により半分意識が覚めた状態になった。
「ザーー」という音がどこからか聞こえてくる。
最初はテレビの放送が終わり砂嵐の音が聞こえているのだと思った。
しかし、どうもそういう音では無い。
その「ザーー」という音は浴室から聞こえてくる。
もしかして…、シャワーの音…!?
私は恐怖心から完全に意識が覚めた。
そして目を開けた瞬間…異様な光景を目の当たりにした…!
部屋の壁という壁が全て真っ赤に染まっているではないか!
目がおかしくなったのか!?
しかし畳や家具などは赤く染まっておらず自分の目の異常では無い事に気付く。

恐ろしくなった私は部屋から逃げ出そうと玄関に走った。
なんとか体は動かせるものの妙に体が重くて思うように足が進まない。
玄関の横には浴室があるのだが…
いつも閉めてあるはずの浴室のドアが開いている…。
その浴室から赤っぽい光が漏れている…!
シャワーの「ザーー」という音…。
絶対、浴室に何かいる!
浴室の中は絶対に見まいと視線を逸らしながら玄関に向かう。
しかし、意識をし過ぎた為に横目で浴室の中を見てしまったのだ…。
真っ赤に染まった浴室の浴槽の中に誰かが横たわっているのが見えた…。
叫びたいのを堪え私は半ば錯乱気味で玄関のドアを開けて脱出した。
そのままマンションから出て人気の多い駅前まで走った。
結局、その日は朝まで部屋に戻る事はできなかった。


部屋に戻ると、昨夜の恐ろしい出来事がまるで夢だったかの如く、その痕跡は全て消えていた。
真っ赤だった壁は元に戻り、浴室のドアは閉まっており、シャワーもピタリと止まっていた。
そう、いつも通りの私の部屋だ。
私はあれは夢だ、寝ボケていたんだと自分に言い聞かせた。
そんな私の想いを否定するか如くある出来事が起きた。

ある日、私は撮り終えたフィルムを写真屋に現像に行った。
そして現像から戻ってきた写真を見て私は驚愕した。
私の部屋で撮った写真が数枚あったのだが…
部屋で撮った写真は殆どが真っ赤に染まり、何が写っているのかすら判断できない状態だったのだ。
その中で唯一、何とか見れなくは無い写真があるにはあったのだが…
それはとても気持ちの悪い写真であった。

写真屋が言うにはカメラの不具合で光が漏れてフィルムに写り込んでしまったのだろうとの事。
下記がその問題の写真である。



写っているのは当時の私である。
私の体を覆うように炎のような血のような真っ赤なモノが写り込んでいる。
見た感じは写真屋の言う通り、光が漏れてしまったのかと思ってしまうような写真だ…。
最初は私もそれで納得していたのだが…
それを否定するものが写っているのを見つけてしまう。



白枠で囲んだ部分を見て欲しい。
そう、サッシが赤く反射しているのだ。
この真っ赤なモノがカメラの光漏れで写り込んだものならば、実際には存在しなかった事になる。
存在しなかったものが果たしてサッシに反射して映り込むだろうか…?


私が初めてこの部屋に入って感じたのも『赤』…
恐ろしい体験をした時に見た部屋の色も『赤』…
部屋で撮った写真に写り込んだモノも『赤』…。
これらの『赤』は全て繋がっているように思う。
心霊の世界で『赤』は最も危険とされる色である。
『赤』は霊の怒りを表しているとされるからだ。

私の見た赤、それは…
部屋に住む姿無き者の怒りなのか…
はたまた姿無き者が流す血か…。


あの日見た浴槽に横たわる何者かの姿…。
実は私はその姿をはっきりと見ている。
長い髪を濡らした二十代半ばの女性…。
手首、喉、胸、体の至る所にある無数の斬り傷…。
大量に流れる鮮血が浴槽を真っ赤に染めていた…。
彼女は虚ろな目で私をじっと見ていた…。
その目はまるで私に助けを求めているかに見えた…。
一瞬見ただけなのに、何故か彼女の姿を鮮明に覚えている。

赤い部屋…
それは彼女の怒りか…
身体から流れる血の涙か…

私は二年間、この部屋で過ごした。
もう十年以上も前の話だ。
今も彼女はこの部屋にいるのだろうか…。



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