私が高校生の時に体験したお話。
私の部屋は二階の一番奥にある。 家の留守番をしている時の事。 私が一人で部屋にいると… 『ギシ… ギシ… ギシ… ギシ…』 誰かが階段を昇ってくる足音が聞こえた。 『ギシ… ギシ… ギシ… ギシ…』 足音は廊下を歩いて私の部屋に近づいてきた。 『ギシ… ギシ… ギシ… ギシッ』 その足音は私の部屋の前でピタリと止まった。 家族が帰ってきたのかなと思いドアに目をやった。 私の部屋のドアには縦長の磨り硝子がついている。 その磨り硝子越しに誰かが立っているのが見えた。 磨り硝子越しに顔を半分覗かせてこっちをジーっと見ている。 「お母さん?おかえり。」 母親だと思い声を掛けたが返事が無い。 ただ磨り硝子越しに顔を半分覗かせジーっと私を見ている。 磨り硝子越しにでも頬骨が出た輪郭が分かるほど痩せこけた顔立ち。 よく見ると髪は胸までのロングで、家族の誰にも当てはまらない。 まったく心当たりの無い人物がドア越しにいる。 「誰?」 声を掛けても彼女は何の反応も示さない。 磨り硝子越しにジーっと覗いているだけである。 その貧弱な雰囲気からして泥棒とは思えないが…。 一向にその女性は動く気配が無い。 私は勇気を出して一気にドアを開けた。 ドアを開けると彼女の姿は無かった。 開ける瞬間まで立っている姿が見えていたのに…。 この日を境に、部屋で妙な気配を感じるようになった。 私以外に誰もいない部屋の中から視線を感じるのだ。 何処から視線を感じるかまではハッキリとは分からないのだが…。 それから一ヶ月くらいが過ぎたある日の事。 私は自分の部屋でセルフタイマーを使って写真を撮った。 特に意味も無く暇潰しで撮影したものだったのが… その写真には奇妙なモノが写り込んでいた。 少し痛んではいるが今でもその写真が手元にある。 説明するより見てもらった方が早いだろう。 見たくない人はここでページを閉じて頂ければ幸いである。 下記がその時に撮影した問題の写真である。 写っているのは当時の私である。 それはさて置き… 右端に薄いカーテンのような白い染みが写り込んでいる。 最初、私は現像ミスだと思い現像をした写真屋に問い合わせに行った。 しかし、ネガにも写り込んでいるから現像時のミスでは無いと言われた。 ネガを見たところ確かにこの染みは写り込んでいた。 この時点ではこの白い染みが何なのか分からなかった。 それから数ヶ月が過ぎた頃。 アルバムを整理しているとこの写真が出てきた。 何気無くその写真を眺めていると… 白い染みの部分に何か写り込んでいる事に気付いた。 これは… もしかして… 人の顔…? 分かりやすくする為にコントラストを上げてみよう。 コントラストを上げると明るい部分は更に明るく、暗い部分は更に暗くなる。 当時はこんな事ができなかったので、説明に苦労したものだ。 白い染みで区切られた部分より右手に何かが形を成しているのが分かるだろうか。 もっと分かり易くする為に、筋が見える部分と色が沈んだ部分を白線でなぞってみよう。 顔の左半分だけを覗かせた髪の長い女性… そのように見えないだろうか? 固定概念を捨てて何度も何度も見直した。 だが、どうしても顔に見えてしまう…。 顔半分だけを覗かせているその姿… まるで物越しに私を覗き込んでいるかのようにも見える。 私は自分の部屋で磨り硝子越しに覗いていた女性の事を思い出した。 磨り硝子越しに見た女性の印象とこの写真に写り込んだ女性の印象がぴたりと一致する。 顔半分を覗かせた姿、胸まで伸びた髪、そして頬骨の目立つ痩せた輪郭…。 私には硝子越しの女性と写真の女性が同一人物に思えて仕方が無い。 そういえばこの写真を撮影したカメラ…。 常に私の部屋の机に出しっ放しにしてあった。 もしかして彼女はカメラのレンズを通じて私を見ていたのだろうか。 だとしたら、何の因果があって私を見ていたのだろう。 特に害も無さそうなので写真は今でも保管してある。 お払いも何もしていないが、多分、大丈夫だろう。 この写真を拝見した人の身も、多分、大丈夫だろう。 多分…。 |