友人のAとドライブに出掛けた時のお話。
私達は夜の東名を走り神奈川の箱根辺りを目指した。 御殿場ICで降りて箱根方面を目指す。 二十分ほどで箱根に到着。 時間は深夜一時、特に何をする訳でも無く目的も無く峠道を走っていた。 途中で肝試しをしようと言う事になり適当な山道に入る事にした。 山道は次第に幅が狭くなり車が通れない程になってしまった。 戻ろうか…と思ったが、車のライトで照らされた先に廃屋らしきものを見つける。 私とAは車を降りてその廃屋らしき建物に向かう事にした。 建物に近づくと倒壊気味の木造建ての住居だった。 廃屋になってから数十年は経過しているようだ。 廃屋の周りを一周したが潜入できそうな入口が無い。 これは入れないな…と思った瞬間。 「かえれぇぇ!」 誰かが私の耳元で怒鳴った。 私はとっさにAの方を向いた。 Aも私の方を向いた。 二人の顔が青ざめる。 Aも同じく怒鳴り声を聞いていたようだ。 「今、お婆さんの声がしたよな…?」 「ああ…、耳元で帰れって怒鳴られた…。」 もちろん辺りには私達二人以外は誰もいない。 ここは危険だと察し潜入を諦め、私達は車へ戻る事にした。 私を先頭に来た道を慎重に歩いていると… ザ… ペタ… ザ… ペタ… 後方のAの足音に交じって別の誰かの足音が聞こえる。 ザ… ペタ… ザ… ペタ… 誰かが私達の後ろについて来ている…。 私は少し早足で歩いた。 ザッ ペタッ ザッ ペタッ その足跡も私達に合わせて足くなる。 ザッ ザッ 暫く歩くとその足音はピタリと消えた。 安心した私は後方を歩くAの方を振り向いた。 すると… Aの背中に見知らぬ老婆が負ぶさっている…! 私はその場で暫く硬直してしまった…。 私は生まれて初めて取り憑かれている人を目の当たりにした…。 「A、大丈夫?」 「ああ、大丈夫だけど、少し疲れた。」 Aは自分の置かれた状況に気付いていない様子。 私は右手にカメラを持っていた。 Aには誠に申し訳無いのだが… 『取り憑かれた人を写真で撮ってみたい』 私は好奇心に駆られた。 幽霊を目の当たりにしたとしても、たまたまカメラを持っている状況などそうは無い。 少なくとも私は『幽霊がいたので写真を撮りました』という心霊写真を未だかつて見た事が無い。 私はカメラをAに構えた。 「ちょっと止まって。」 もちろん老婆の事は伝えない。 「はい、笑って。」 Aはちょっと引きつった笑顔を見せた。 「はい、チーズ。」 「…。」 「…。」 「…?」 シャッターが下りない…! カメラの設定をオートからマニュアルに変更して再度挑戦。 やはりシャッターは下りない…! 何かの力でボタンが押せなくなっているみたいだ。 それでも私は強引に力一杯シャッターをねじ込んだ。 ググ……カシャッ! 強引に押し込み、何とか撮影する事ができた。 フラッシュが光ったと同時に老婆は霧の如く消えてしまった…。 そして私達は帰路に着いた。 早速、撮影した写真を現像に出した。 これがその時の写真である。 白い霧状のものがAを包み込むように写っている。 取り憑かれた人を撮影するとこういう風に写るらしい。 霧も無く煙草も吸っていなかった。 暖かい時期だったので息が白かったという事も無い。 もちろんA自身も煙を発するものなど何一つ持っていなかった。 この写真を見たAは絶叫。 だが後で聞いた話、Aはあの時、体が少し重くなったらしく、何かしらの異変には気付いていたみたいだ。 あの日以降、特に太ったわけでも無いのに暫くの間、2kgほど体重が増えていたと言う。 その後、彼が心霊スポットに行けなくなった事は言うまでもない…。 |