多重人格

僕の実際に経験した変わった恋愛についてお話します。

2年程前に僕はある一人の女性と付き合っていました。
彼女は僕よりもいくつか年上だったのですが子供っぽい雰囲気を持つ人でした。
見た目も僕の方が断然年上に見られる事が多かったです。
容姿から喋り方や仕草まで全てが幼い感じでした。
よく真夜中に寝ている僕を強引に起こしてコンビニに一緒にアイスを買いに行こうと誘うなど少しワガママな面もありました。
都内でも近くにコンビニの無いところに住んでいるのでバイクに乗って一番近いコンビニまで行ってました。
寝ぼけた頭で二人乗りはちょっと怖かったですが…。(^^;
何だかんだ言っても彼女の事が好きだったのでどんな形であれ一緒に過ごす時間はとても幸せでした。
ワガママな面も含めて僕は彼女の事を愛していました。
最初は偶然にもお互いに一目惚れだったのです。
悪い言い方をすれば顔だけで好きになってしまったのですが喋ってみると趣味などの共通点も多く気が付いたら彼女の全てを好きになっていました。
ごく普通のカップルでお互いに幸せだったのですが,ある事を切っ掛けに意外な方向へ急展開するのです。
その話をする前に言ってしまうのですが最終的には彼女とは別れる事になります。
この事が無ければ彼女と別れる事は無かっただろうとまで言い切る事はできませんが少なくともその要因にはなった事は確かです。
それではその話をしていきます。

話の始まりは彼女と付き合って半年ほど経ったある日の事です。
二人で一緒にいる時に何が原因か分からないのですが、彼女はいきなり僕の事を忘れてしまったのです。
半年付き合っていて今の今まで話していて喧嘩したワケでも無く、いきなり「あなたは誰?」と彼女は言い出したのです。
僕には何が起きたのか理解できませんでした。
何を話しても僕の事を思い出してくれないのです。
最初はイタズラかと思いましたがどうやら本当に僕の事を知らないみたいなのです。
そして彼女の喋り方や仕草は明らかに僕の知っている彼女では無かったのです。
言うなれば完全に別人でした。
事態を把握できないまま僕は自分自身の事や僕の知っている彼女の事などを彼女に話す事から始めました。
そして彼女の話を聞いている内に彼女が多重人格だという事が分かりました。
今、話をしている彼女は僕の知らない人格の彼女だったのです。
つまり彼女からしても僕とは初対面なのでまったく知らない人だったのです。
この事を切っ掛けに僕の事を知ったその人格の彼女はその後も頻繁に僕の前に出てくるようになりました。
これを境にごく普通の幸せだった恋愛から特異な恋愛に変わっていったのです。

後になって知った事なのですが彼女は幼い頃に家族から受けた虐待が原因で人格が分離してしまったようです。
本当に極一部の人にしか当てはまらない事なのですが、そういった虐待などの経験を持つ人の中には通常の思い出を記憶する場所とは別のところに辛い思い出を記憶してしまう人がいるのです。
簡単に言うと辛い事を記憶する場所が別に用意されているのです。
人の人格は経験…つまり記憶から作られていると言っても過言ではありません。
辛い事を別の場所に記憶してその記憶が溜まるにつれて一つの別人格が生まれてくるのです。
言わば同じ一つの身体の中にまったく違う過去を持った二人の人間が存在するようになるのです。
一つの人格は普通の生活を送ってきた記憶しかないので純粋な普通の性格です。
無知すぎる程の純粋な性格でした。
もう一つの人格は家族からの虐待など辛い事のみを味わってきた人格です。
精神的にはとても強いのですが、やはり辛い現実ばかりを見てきた為に考え方が曲がった部分も多く性格はきつい印象を受ける人格でした。
しかし彼女は自分が辛い思いをしてまでもう一人の純粋な自分をずっと守ってきたのです。
気の強い人格の彼女は口調もきつく多少接し辛いところもありましたが、今まで辛い思いをしてきたのだと思うと僕は彼女のきつい性格を嫌いになる事はできませんでした。
元々はもう一人の自分を守る為に生まれてきた人格なのできつい口調の中にたまに優しさを垣間見ることもあり、次第にその人格の彼女の事も好きになり始めました。
純粋な人格が妹だとすると気の強い人格の彼女はまるでお姉さんのようでした。
知識も豊富なのでもしかしたら今まで殆どの時間は気の強い彼女が過ごしてきたのかも知れません。
それほどに辛い時間が多かったと言う事でしょうか…。
出会った頃の僕は純粋な人格の彼女を好きだったのです。
気の強い彼女は付き合い始めの頃は僕の前に出てくる事も無かったからです。

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