一龍旅館編 其ノ四


入口に近い個室はトイレだ。
一階や二階のトイレと比べると若干広めである事からやはり少し宿泊料の高い特別室で間違い無さそうだ。
場所:客室11のトイレ


部屋に戻って周りを見渡すと床の間が目に入った。
今までの壁と比べるとかなり綺麗だ。
取りあえず中に入ってみよう。
場所:客室11の小さな空間


こうして見ると他とはまったく異空間である。
とても三十年以上の年月を経てきたとは思えないくらいに状態が良い。
廊下に戻る事にする。
場所:客室11の小さな空間


廊下の奥を見ていると突き当たりの客室から今にも誰かが出てきてこっちに歩いてきそうだ。
突き当たりには箱型の白い物体が見える。
それは後で調べる事にして手前の客室に入る事にしよう。
場所:三階の廊下


三階の二番目の客室。
こっちも窓際はかなり酷い状態。
三階に来てから何だかあまり気分が優れない。
一階や二階とは比べ物にならないくらい嫌な雰囲気が漂っている。
今すぐここから抜け出したい気分だ。
実は三階に来てから見落としている点が一つあったのだがこの時点では気付いていない。
ベランダに出てからその事に初めて気付く事になる。
しかし今思うと防衛本能が働いて無意識の内に見落としていたのかも知れない。
次の客室に向かう。
場所:客室12


客室を移動する毎にまるでグラデーションの如く部屋の状態が酷くなっている気がする。
まるで一龍旅館が徐々に自然に還っていっているような感じだ。
廊下に出て次の客室に向かう。
場所:客室13


さっきの白い物体だ。
何かの機械のようだが…。
場所:廊下の白い物体


冷蔵庫…だと思う。
こんな業務用っぽい冷蔵庫を客室に置いていたのだろうか。
それとも食堂や売店などから運んできたのだろうか。
最後の客室に向かう。
場所:廊下に放置された冷蔵庫


一龍旅館、最後の客室…。
完全に焼け焦げている。
部屋の中で撮った写真とは思えない。
多分、廃業になってから放火されたものでは無いだろうか。
営業中に火事になったのなら天井や壁は修復されているだろう。
オーナーが焼身自殺をしたとか火事で宿泊客が犠牲になったとなれば直後に廃業してそのまま放置されたという可能性も考えられなくは無いが。
三階の廊下だけ妙に壁がくすんでいたのはここの火事で発生した煙の煤が媚リ付いた為だったらしい。
廊下のくすみ具合を見る限りではかなり長時間燃焼し続けたと思われ一切の消化作業は行われなかったのでは無いだろうか。
だとすると廃業後の放火と考えるのが自然だろう。
この客室自体は特に何も感じないのだが三階に来てからずっと視線らしきものを感じる。
場所:客室14


天井は炭になっている。
この紐の束は何だろう。
燃えていないところを見ると火事の後に設置されたものだろうか。
場所:客室14の天井


中央よりちょっと右上の壁が煙のように白くなった部分。
まるで亡霊が大きく口を開けて苦痛に歪んだ顔が壁から滲み出ているようで不気味である。
場所:客室14の壁


壁には何かが置いてあった後がくっきり残っている。
かなり大きな箱型の物が置いてあったようだ。
場所:客室14の壁の痕跡


部屋の奥にある出入口からベランダ側に出てみる事にする。
場所:ベランダへの出口


ベランダは客室間の仕切りも無く自由に行き来ができるようだ。
このまま進めば階段の方に繋がっているはずだが全客室のベランダを通る事になる。
ベランダからは客室の内部が丸見えである。
逆を言えば客室の内部からベランダは丸見えという事になる。
全客室の前のベランダを通って階段側に回り込むのは正直、あまり気が進まない。
さっきからずっと嫌な感じがして仕方が無い。
このまま進むと何かに見られるか何かと出くわしてしまいそうな感じがする。
しかしここで引き返すのも気が引ける。
やはりベランダを通って階段側へ向かう事にした。
場所:三階のベランダ



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